エキスパートシステム

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エキスパートシステムとマイシン

人工知能という技術の中で、特定の分野に秀でた人の知識や経験を計算機の仕組みの中に入れ込み、その道の達人のように考え判断を下す仕組み作りが古くから行われてきました。こうした仕組みは、専門家システムと呼ばれ、人の専門家の代わりになること、あるいは専門家の手助けをすることを目指しています。 具体的には、どのように専門家の知恵を計算機に教え込むのでしょうか。それは「もし〜ならば〜」という形の規則をたくさん作り、それらを計算機に覚えさせることで実現します。例えば、医療診断の専門家システムを作る場合、「もし熱があり、咳が出て、喉が痛ければ、風邪の可能性が高い」といった規則を多数用意します。これらの規則は、専門家の経験や知識に基づいて作られます。 そして、実際に診断を行う際には、患者さんの症状を入力します。すると、専門家システムは、入力された症状と、あらかじめ記憶している規則を照らし合わせます。もし入力された症状が、ある規則の「もし〜ならば〜」の「もし」の部分に合致すれば、その規則の「ならば」の部分にある結論を導き出します。例えば、患者さんが熱、咳、喉の痛みを訴えている場合、システムは「風邪の可能性が高い」と診断します。このようにして、専門家システムはまるで専門家のように考え、判断を下すことができるのです。 専門家システムは医療診断だけでなく、お金に関する助言や機械の不具合を見つけるなど、様々な場面で使われています。例えば、金融の専門家システムは、顧客の資産状況や投資目標に基づいて、最適な投資プランを提案することができます。また、工場で使われる機械の故障診断システムは、センサーから得られたデータに基づいて、故障の原因を特定し、修理方法を提案することができます。 専門家システムの研究開発は人工知能研究の黎明期から行われており、現在でも様々なシステムが開発され、実際に活用されています。今後も、様々な分野での応用が期待されています。
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知識の時代と人工知能

人間が知恵を機械にまねさせるという大きな夢、それが人工知能の始まりです。その始まりは、1956年に開かれたダートマス会議でした。この会議こそ、人工知能という考え方が初めて世に出た歴史的な場となりました。会議では、人間の知能を機械で再現するという壮大な目標が掲げられ、多くの研究者がこの新しい分野に情熱を注ぎ込みました。 初期の研究では、人間がどのように考え、判断するのかというプロセスを、計算機の言葉で書き表すことに力が注がれました。たとえば、物事を筋道立てて考えたり、様々な可能性を探ったりといった人間の思考過程を、プログラムとして再現しようと試みたのです。その結果、簡単な遊びを解いたり、数学の定理を証明したりするプログラムが開発されました。これらの成果は、まだ初期段階とはいえ、人工知能が秘める大きな可能性を示すには十分でした。人々は、機械が人間と同じように考え、行動する日が来るのもそう遠くないと、大きな期待を抱きました。 しかし、当時の計算機の能力は限られており、複雑な問題を扱うには力不足でした。そのため、人工知能の研究は思うように進まず、一時は停滞期を迎えます。それでも、研究者たちは諦めませんでした。人間の脳の仕組みをより深く理解し、それを機械に再現するための新たな方法を模索し続けました。そして、計算機の性能が飛躍的に向上した現在、人工知能は再び脚光を浴び、様々な分野で目覚ましい発展を遂げています。ダートマス会議から始まった人工知能の物語は、今もなお、未来へ向かって大きく展開しているのです。
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知識獲得の難しさ:AIの壁

人工知能という新しい考え方が生まれた時、多くの人が大きな希望を抱きました。まるで人間のように考え、難しい問題を解いてくれる機械は、皆の夢でした。その夢を実現するために、人工知能の研究が盛んになった時期、とある方法に注目が集まりました。それは「専門家システム」と呼ばれるもので、特定の分野で活躍する専門家の知識を機械に教え込もうという試みでした。 専門家システムを作るには、まず、専門家がどのような知識を使って考え、判断しているのかを詳しく調べなければなりません。そして、その知識を明確な規則に変換し、機械が理解できる形に書き直す必要があります。例えば、医者が患者の症状から病気を診断する過程を、いくつもの「もし~ならば~」という規則で表現するのです。こうして、たくさんの規則を機械に覚えさせることで、まるで専門家のように考え、答えを出してくれるシステムを作ろうとしました。 しかし、この試みは大きな壁にぶつかりました。それは「知識獲得の難しさ」です。人間にとっては当たり前の知識や経験でも、機械に理解させるには、明確な規則や数値データに変換する必要があります。しかし、専門家の知識は必ずしも明確な言葉で表現できるわけではなく、経験に基づく直感や暗黙知といった、言葉で説明しにくいものも多く含まれています。このような知識を機械に教え込むことは、想像以上に難しい作業でした。たとえ専門家が丁寧に説明してくれたとしても、それを規則に書き換える作業は大変な労力を必要としました。また、専門家の知識は常に変化し、新しい情報が追加されていくため、システムを常に最新の状態に保つことも大きな課題でした。こうして、専門家の知恵を機械に移植するという試みは、当初の期待ほどには進展せず、人工知能研究は新たな局面を迎えることになります。
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第五世代コンピュータ:知能を持つ機械への挑戦

第五世代計算機とは、1982年から1992年にかけて、当時の通商産業省(現在の経済産業省)が中心となって進めた国家規模の計画のことです。人間の知的な活動、例えば、ものごとを筋道立てて考えたり、経験から学んだりすることを、計算機にもできるようにすることを目指していました。これは「人工知能」と呼ばれる技術の実現を目標としたものでした。 それまでの計算機は、計算処理の速さや正確さには優れていましたが、人間の思考のように複雑で柔軟な処理は苦手としていました。例えば、たくさんの情報の中から必要な情報を選び出したり、状況に合わせて判断を変えたりすることは、当時の計算機には難しかったのです。第五世代計算機は、こうした限界を乗り越え、より人間に近い知能を持つ計算機を作ることを目指したのです。 この計画には、約540億円という莫大な費用が投じられました。これは当時の金額で考えると、非常に大きな額です。当時の日本は、技術力を高めることに大きな力を注いでおり、世界に先駆けて人工知能を実現し、様々な分野で大きな変化を起こすことを期待していました。具体的には、言葉の意味を理解する、複雑な問題を解く、自動で翻訳するといった機能の実現を目指していました。 しかし、当時は計算機の性能や人工知能に関する知識が現在ほど進んでいなかったため、目標としていた人工知能の実現には至りませんでした。それでも、この計画を通じて並列処理技術や論理型プログラミング言語といった様々な新しい技術が生まれ、その後の計算機技術や人工知能研究の発展に大きく貢献しました。第五世代計算機計画は、人工知能という大きな目標に挑戦した、日本の技術開発史における重要な出来事と言えるでしょう。
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知識ベースとエキスパートシステム

知識ベースとは、様々な情報を整理し蓄積した情報のかたまりです。まるで人間の頭脳のように、たくさんの知識を体系的に格納しています。この情報のかたまりの中には、教科書に載っているような事実や知識だけでなく、熟練の職人さんが持つような経験に基づくコツや、状況に合わせて判断するためのルールなども含まれています。 知識ベースに含まれる情報は、機械が理解し使える形になっている必要があります。例えば、文章や数値、記号など、機械が処理しやすい形に変換されていることが大切です。知識ベースは、人工知能の土台となるもので、人工知能が賢い判断や推論を行うために必要な情報を提供します。人工知能は、この知識ベースを参照することで、まるで人間のように考え、行動することができます。 知識ベースは様々な分野で役立っています。例えば、病院で使われる診断支援システムでは、病気の症状や治療法、薬の情報などが知識ベースに格納されています。医師はこの知識ベースを参考にしながら、患者さんの症状に合った適切な診断や治療を行うことができます。また、お客様対応システムでは、製品情報やよくある質問への回答、お客様からの過去の問い合わせ内容などが知識ベースに格納されています。対応する担当者はこの知識ベースを活用することで、お客様からのどんな質問にもスムーズに答えることができます。 このように、知識ベースは様々な場面で活用され、システムの知的な能力を高める上で重要な役割を担っています。知識ベースの質を高め、情報を充実させることで、人工知能はより賢く、より頼りになる存在へと進化していくでしょう。
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サイクプロジェクト:機械に常識を教える

「知識と思考の道具」を作る壮大な計画、それが1984年に始まった「サイクルプロジェクト」です。この計画の目的は、人工知能に、私たち人間が普段当たり前に使っている常識を理解させることです。たとえば、「水に触れたら濡れる」「空は青い」「物を落とせば下に落ちる」といった、私たちにとっては特に意識することなく知っているような、ごく当たり前の知識も、実はコンピュータにとっては容易に理解できるものではありません。コンピュータは、明確な指示や定義がない限り、物事の道理や関係性を理解することができません。 この計画では、人間が当然のように持っている常識を、一つ一つ丁寧にコンピュータに教え込んでいくことで、最終的にはまるで人間のように考え、判断できる人工知能の実現を目指しています。具体的には、これらの常識をデータとして蓄積し、巨大な知識のデータベースを構築していく作業となります。そして、このデータベースこそが、人工知能が様々な状況を理解し、適切な判断を下すための土台となるのです。 しかしながら、人間の持つ常識はあまりにも膨大で、複雑に絡み合っています。すべての常識を洗い出し、コンピュータが理解できる形に整理していく作業は、まさに気の遠くなるような途方もない挑戦と言えるでしょう。このプロジェクトは、人間の知能の奥深さを改めて認識させるとともに、人工知能研究における大きな一歩となることが期待されています。サイクルプロジェクトが目指す未来は、人工知能が私たちの生活をより豊かに、より便利にしてくれる社会の実現と言えるでしょう。そして、それは単なる知識の集積ではなく、真に「考える」ことができる人工知能の誕生へと繋がる道なのです。
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世界初のエキスパートシステム:DENDRAL

「デンドラル」という人工知能は、一九六〇年代にスタンフォード大学のファイゲンバウム氏によって開発されました。これは、未知の有機化合物の特定を目的とした画期的なシステムです。 当時、質量分析法という技術が発展し、化合物の分子量や組成といった情報が得られるようになっていました。しかし、これらのデータを解釈し、化合物の構造を決定するには、熟練した化学者の知識と経験が必要不可欠でした。分析結果から化合物の構造を特定するには、複雑な推論と膨大な知識が必要だったのです。そのため、分析に時間がかかり、多くの労力を必要としていました。 そこで、ファイゲンバウム氏は、この複雑なプロセスを自動化することを目指し、デンドラルを開発しました。デンドラルは、化学者の思考プロセスを模倣することで、未知の化合物を特定するシステムです。具体的には、質量分析法で得られたデータを入力すると、デンドラルは、考えられる化合物の構造をすべて生成します。そして、様々な制約条件に基づいて、候補となる構造を絞り込み、最終的に最も可能性の高い構造を提示します。 デンドラルは、特定の分野の専門家の知識を計算機に組み込み、複雑な問題を解決する、世界初の「専門家システム」として知られています。これは、それまでの計算機とは一線を画すものでした。従来の計算機は、主に数値計算やデータ処理を行うものでしたが、デンドラルは、人間の専門家のように推論し、問題解決を行うことができたのです。これは、人工知能研究における大きな進歩であり、後の専門家システム開発に大きな影響を与えました。デンドラルの成功は、人工知能が複雑な現実世界の問題を解決する上で大きな可能性を秘めていることを示し、人工知能研究の新たな時代を切り開いたと言えるでしょう。
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エキスパートシステムとマイシン

ある特定の分野に秀でた専門家の持つ知識や、物事を筋道立てて考える能力を、計算機の仕組みの中で再現しようとする研究が、人工知能の分野で進められています。このような仕組みは、専門家のように問題を解決したり、判断を助けることを目指しており、「専門家の仕組み」と呼ばれています。これは、まるでその道の専門家が計算機の中にいるかのように、的確な助言や解決策を導き出す画期的な方法です。 人が経験や直感から得た知識は、普段は言葉ではっきりと説明されない暗黙知であることが多く、これを計算機で扱うのは容易ではありません。そこで、専門家の仕組みを作るには、まず、専門家がどのような知識や考え方で問題を解決しているのかを詳しく調べ、聞き取り調査などを通して明らかにしていく必要があります。次に、明らかになった知識や考え方を、計算機が理解できる形に整理し直します。これは、例えば「もし~ならば~である」といった規則や、論理的な数式といった形で表現されます。これらの規則や数式を組み合わせたものが、専門家の思考を模倣したプログラムの核となります。 専門家の仕組みは、専門家がいない時や、複雑で判断が難しい状況で特に役立ちます。例えば、病気の診断支援や、金融商品のリスク評価など、様々な分野で活用が期待されています。熟練した専門家の持つ知恵を計算機の中に取り込むことで、より多くの人が専門家の知恵を活用できるようになり、社会全体の効率化や質の向上に貢献すると考えられています。ただし、専門家の仕組みはあくまで人間の思考を模倣したものであり、人間の専門家と全く同じ判断をするとは限りません。また、倫理的な問題や、プログラムの限界についても考慮する必要があります。
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知識の時代:コンピュータに知恵を

かつて、計算機に人間の持つ知恵を教え込もうという大きな流れがありました。まるで専門家のように物事を理解し、的確な答えを導き出す賢い計算機を作ろうという試みです。この時代は「知識の時代」と呼ばれ、人工知能の研究における一つの大きな波となりました。 人々は、計算機にたくさんの知識を蓄積させることで、様々な問題を解決できると考えました。これは、人間の頭脳も多くの知識を基に考えているという発想から来ています。専門家は特定の分野について豊富な知識を持っているので、それと同じように計算機にも特定の分野の知識を教え込めば、専門家のように振る舞うことができると考えたのです。 具体的には、専門家の知識をルールという形で表現し、それを計算機に覚えさせました。「もし~ならば~する」といった形で、様々な状況に対する対応をルール化し、それらを組み合わせることで複雑な問題にも対応できるようにしました。例えば、医者の診断を模倣するために、患者の症状と病気の関係をルール化し、それをもとに診断を行うプログラムが作られました。 この「知識を入れる」というアプローチは、初期の人工知能研究において大きな成果を上げました。特定の分野に特化した専門家システムと呼ばれるプログラムは、実際に一部の専門家と同等の働きをすることもできました。しかし、この方法は限界も抱えていました。人間の持つ知識は非常に複雑で、全てをルール化することは困難でした。また、状況の変化に柔軟に対応することも難しく、予期せぬ事態が起こるとうまく対処できませんでした。まるで人間のように考え、判断し、どんな問題にも対応できる本当に賢い計算機を作るという夢は、まだ遠い未来の目標として残されました。それでも、この時代の研究は、その後の人工知能研究の礎となり、様々な新しい技術を生み出す土台となりました。
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第五世代コンピュータ:未来への挑戦

夢のコンピュータを作るという大きな計画がありました。これは、昔、通商産業省(今の経済産業省)が中心となって進めた第五世代コンピュータ計画というものです。この計画は、1982年から1992年までの10年間行われました。この計画の目的は、人工知能を実現することでした。人工知能とは、人間のように考えたり、学んだりすることができるコンピュータのことです。 この計画では、「推論」や「学習」といった人間の知的な活動をコンピュータで再現することを目指しました。「推論」とは、いくつかの情報から新しい知識を導き出すことです。例えば、「空が曇っている」と「雨が降りそう」という情報から、「傘を持って行こう」という結論を導き出すようなことです。「学習」とは、経験から学ぶことです。例えば、何度も同じ間違いを繰り返さないように、過去の経験から学ぶようなことです。 当時のコンピュータは、計算やデータ処理は得意でしたが、人間の知的な活動は苦手でした。そのため、この計画は、従来のコンピュータとは全く異なる、新しいタイプのコンピュータを作る必要がありました。まさに夢のコンピュータの実現を目指した壮大な計画でした。 この計画には、たくさんの研究者や技術者が集まりました。彼らは、当時としては最先端の技術に挑戦しました。並列処理という、複数の処理を同時に行う技術や、知識を表現するための新しい方法などを開発しました。日本が世界に先駆けて、コンピュータ技術の新しい時代を切り開こうという強い気持ちで取り組んだ計画でした。 残念ながら、第五世代コンピュータ計画は当初の目標を全て達成することはできませんでした。人工知能の実現は、予想以上に難しいことがわかりました。しかし、この計画で得られた技術や知識は、その後の人工知能研究の礎となり、今のコンピュータ技術の発展に大きく貢献しています。この計画は、未来の技術を見据えて挑戦した、日本の技術力の象徴と言えるでしょう。
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専門家の知恵をプログラムに

近年、様々な分野で人材不足が深刻化しており、特に高度な専門知識を持つ熟練者の不足は大きな課題となっています。そこで注目されているのが、専門家の代わりとなる仕組み、いわゆる「専門家システム」です。これは、特定の分野における熟練者の知識や経験を計算機の仕組みの中に組み込み、その熟練者のように考えたり判断したりすることができる仕組みです。 人の持つ高度な思考過程をまねて、複雑な問題解決や意思決定を助けることを目指しています。例えば、医療における診断や、金融における売買、工業製品の設計など、様々な分野での活用が期待されています。 具体的には、熟練者が普段どのように考え、判断しているのかを丁寧に聞き取り、それを規則化して計算機の仕組みの中に組み込みます。例えば、ある病気の診断であれば、「熱がある」「咳が出る」「喉が痛い」といった症状を入力すると、システムが病気を推定し、適切な対処法を提示します。 この仕組みを使うことで、熟練者でなければ難しい判断を仕組みによって自動的に行ったり、あるいは判断を助けることで、仕事の効率を上げたり、人材不足を解消したりすることに役立ちます。また、熟練者の知識を整理して、皆で共有することで、組織全体の知識水準を上げる効果も期待できます。 さらに、この仕組みは、熟練者の引退による知識の喪失を防ぐ役割も果たします。熟練者の貴重な知識を仕組みの中に保存することで、将来にわたって活用することが可能になります。このように、専門家システムは、様々な分野で人材不足を解消し、組織の能力向上に貢献する、将来性のある技術と言えるでしょう。
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DENDRAL:化学分析の革新

質量分析法は、物質の分子量や組成を調べる強力な手法として、1960年代に急速に発展しました。しかし、得られた複雑なデータから化合物の構造を特定するには、熟練した化学者の深い知識と豊富な経験、そして多大な時間が必要でした。この状況を打破するために、スタンフォード大学で1960年代に始まったのがデンドラル(DENDRAL)計画です。 デンドラルの主要な目的は、質量分析法で得られたデータから、未知の有機化合物の化学構造を推定する支援をすることでした。言い換えれば、質量分析計という機械が生み出す大量のデータを読み解き、元の物質がどのような構造をしているのかをコンピュータで推定しようという、当時としては非常に野心的な試みでした。 デンドラルは、人工知能(AI)という新しい分野の初期の成功例の一つとなりました。まだ黎明期にあった人工知能研究において、デンドラルは専門家の知識をコンピュータ上で表現し、問題解決に活用するという画期的な方法を示しました。具体的には、質量分析のスペクトルデータと化合物の構造に関する知識を組み合わせ、論理的な推論に基づいて候補となる構造を絞り込んでいくアルゴリズムが開発されました。 デンドラルの開発は、その後のAI研究に大きな影響を与えました。エキスパートシステムと呼ばれる、特定の分野の専門家の知識をコンピュータに組み込み、問題解決を支援するシステムの開発に道を開いたのです。また、大量のデータから意味のある情報を抽出する手法の研究も大きく進展しました。デンドラルは、人工知能が科学研究の強力な道具となる可能性を示した、重要な出来事と言えるでしょう。
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常識を機械に:Cycプロジェクトの挑戦

人間が当然のように持っている常識を、機械に理解させることは、想像以上に難しい仕事です。1984年に始まった「サイクプロジェクト」は、まさにその困難な課題に挑戦している壮大な計画です。この計画では、まるで幼い子どもに言葉を教えるように、一つ一つ丁寧に常識を機械に教え込んでいきます。 私たちは日常生活で、無意識のうちに常識を活用しています。例えば、空の色は青いという単純な認識も、常識の一つです。しかし、この一見単純な常識を機械に理解させるためには、様々な例外を考慮しなければなりません。朝焼けや夕焼けの空は赤く、曇りの日は灰色です。また、場所や時間、天候によっても空の色は変化します。このような例外を全て洗い出し、機械が理解できるように正確に定義していく作業は、非常に複雑です。 さらに、常識は文化や地域によっても異なります。日本では当たり前のことが、他の国では通用しない場合もあります。このような文化的な違いも考慮に入れなければ、真の意味で常識を理解する機械を作ることはできません。そのため、サイクプロジェクトでは、多様な文化圏の常識を収集し、比較分析する作業も行われています。 このように、機械に常識を教える作業は、膨大な時間と労力を必要とします。しかし、もしこの計画が成功すれば、私たちの生活は大きく変わるでしょう。より人間に近い人工知能が実現し、様々な分野で活躍してくれるはずです。サイクプロジェクトは、まさに未来を拓く挑戦と言えるでしょう。
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専門家の知恵をコンピュータに:エキスパートシステム

知の伝承とは、古くから師匠が弟子へと技術や知識を授ける営みを指します。まるで熟練の職人が長年の経験で培った技を次の世代へと伝えるように、知識や技能は脈々と受け継がれてきました。しかし、この伝承には限界もありました。師匠の教えを受けられる弟子は限られ、その知識は一部の人々に独占される傾向がありました。また、師匠の体調や記憶力といった個人的な要因によって、知識が正確に伝わらなかったり、失われてしまう可能性もありました。 こうした課題を解決するために生まれたのが、専門家の知識を計算機に教え込む構想です。専門家システムと呼ばれるこの仕組みは、特定の分野に精通した人の持つ知識や経験を計算機の中に再現し、まるでその専門家のように判断や助言をできるように設計されています。例えば、病気の診断に役立つ知識を教え込めば、医師のように症状から病気を推測することができます。熟練した職人の技を教え込めば、弟子のように複雑な作業手順を再現することも可能です。 この技術は、これまで一部の専門家に限られていた知恵を誰もが利用できるようにする画期的な方法と言えるでしょう。まるで本棚に並んだ書物のように、計算機の中に整理された知識はいつでも必要な時に取り出すことができます。場所や時間の制約を受けずに誰でも専門家の知恵に触れることができるので、教育や訓練の効率を高める効果も期待できます。さらに、希少な専門知識を後世に残すことも可能になります。この知の伝承の新たな形は、社会全体の進歩に大きく貢献すると考えられています。