
ルールベース機械翻訳:黎明期の挑戦
機械翻訳の始まりは、計算機がまだ広く使われていない時代まで遡ります。言葉を自動で別の言葉に変換するという試みは、当時の人々にとってまさに夢物語のような挑戦でした。そして、その夢を実現するためのはじめの大きな一歩となったのが、規則に基づいた機械翻訳、いわゆる規則翻訳です。
規則翻訳は、人が言葉を理解し、翻訳するのと同じように、計算機にも文法の規則や単語帳を与え、翻訳させようという考え方です。まるで計算機に言葉の専門家のような役割を期待するような、壮大な計画でした。具体的には、まず、元の言葉の文を品詞に分解し、文法の規則に基づいて、訳したい言葉の語順に並べ替えます。次に、単語帳を使って、それぞれの言葉を訳語に置き換えます。こうして、元の言葉の文が、訳したい言葉の文に変換されるのです。
しかし、この方法には大きな壁がありました。人が言葉を扱うときには、文脈や言葉の裏の意味、文化的な背景など、様々な要素を考慮に入れています。しかし、規則翻訳では、これらの要素を十分に扱うことができませんでした。例えば、「風が強い」という文を英語に翻訳する場合を考えてみましょう。単純な規則翻訳では、「wind is strong」という訳文が生成されるかもしれません。しかし、状況によっては、「It's windy」や「The wind is blowing hard」といった表現の方が自然な場合があります。このような文脈に合わせた微妙な表現の違いを、規則だけで表現することは非常に難しいのです。さらに、言葉の例外的な使い方や、新しい言葉の登場などにも対応できず、その壁は想像以上に高いものでした。
このように、規則翻訳は、機械翻訳の初期段階において重要な役割を果たしましたが、その限界も明らかでした。そして、この限界を克服するために、新たな方法が模索されることになります。